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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)800号 判決 1949年11月15日

被告人

川井弁造

外二名

主文

原判決中、被告人倉田茂二、同張日変に関する部分を破棄し、本件を津地方裁判所に差し戻す。

被告川井弁造の本件控訴はこれを棄却する。

理由

被告人倉田茂二の弁護人寺尾元実の控訴趣意は、別紙の通りである。その第一点について。

原審第二回公判調書の記載によれば、檢察官はまず、(1)乃至(16)の証拠調請求を爲し、その中(3)乃至(12)は、被告人並に相被告人の司法警察員又は檢察事務官に対する供述調書であることは、所論の通りであるが、原審裁判所は、まず被告人等の供述調書でない(1)(2)(13)乃至(16)の証拠調を爲した後、被告人等の供述調書が任意の自白に基き作成されたもので証拠能力のあることを確かめてから、右各供述調書の証拠調手続を爲していることが明かである。而して刑事訴訟法第三百一條によれば、被告人の自白の供述調書は、他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することができないと規定してあり、刑事訴訟規則第百九十三條第一項には、檢察官はまず、事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調を請求しなければならないと規定してあつて、両規定は一見矛盾するように見えるが、規則第百九十三條第一項の証拠には、被告人の自白を含まないものと解しなければならないもので、かく解することによつて両規定ははじめて矛盾なく理解することができるのである。果して然らば、原審における檢察官の証拠調請求は、刑事訴訟法第三百一條に違反するけれども、前記の如く、被告人等の供述調書は、他の証拠が取り調べられた後その任意性を確かめ、最後に取り調べられているから、実質において、同條の企図する結果を得ているものと認めることができる從つて、右証拠調請求方法の違式は、判決に影響を及ぼしたことが明かでないから、論旨は理由なく、これを採用することができない。

被告人張日変の弁護人櫻井紀の控訴趣意は、別紙の通りである。

その第一点について。

被告人張日変は原審公判廷において、賍物の知情の点について否認しているが、この点については、原判決挙示の相被告人倉田茂二の檢察事務官に対する供述調書によつて、認めることができ、これを認めることは必ずしも経驗法則に反しない。論旨は独自の見解により、原審が自由心証により証拠の取捨判断したことを非難するもので、採用することができない。

次に職権により、被告人倉田茂二、同張日変に対する原判決を審査するに、原判決は、(一)被告人倉田茂二が原審相被告人西山建藏と共謀の上、判示ハルンタイヤ(六〇〇×一六六フフイ)十二本を代金十二万円で販賣し、(二)被告人張日変がこれを買受け、(三)更に被告人張日変がこれを代金十三万円で原審相被告人辻正睦に販賣した点を物價統制令第九條の二の不当高價の賣買に該当すると認定している。然し、統制價格の指定してある物品について、その統制額より超過した代金で販賣したときは、同令第三條第三十三條を適用判断するのが正当で、同令第九條の二第三十四條を適用するのは、正当でない。而して不当價格の賣買を認定するには、基準となるべき正当價格を定め、その價格より不当に高價であるか否かを認定し、これを判決に明示しなければならない。然るに原判決は、業者の統制販賣價格一本三千五百六十円と記載しているのみで、これが正当價格となるか否か全く不明である。統制額を超過したことが即ち不当高價であることは、たやすく論じ難い場合が多いから、原判決は物價統制令第九條の二違反とするには、その理由が不備である。かつ原判決は、右タイヤの賣買周旋人は買受を賍物牙保又は賍物故買としないから右物價統制令違反と併合罪の関係にあるものとして、賍物罪の刑に法定の加重を爲して、処断しているが、右タイヤ賣買周旋又は買受けが一面においては、賍物牙保又は賍物故買となり、他面において、物價統制令違反となる場合であるから、刑法第五十四條第一項前段に所謂一個の行爲で数個の罪名に該当する場合である。從つて原判決は、法令の適用についても誤りがある。右理由不備及び法令適用違反は、判決に影響することが明かであるから、刑事訴訟法第三百九十七條第三百七十八條第四号第三百八十條により、被告人倉田茂二、同張日変に関する原判決を破毀し、被告人張日変の控訴趣意中量刑不当の点についての判断を省略し、同法第四百條により、本件を原裁判所である津地方裁判所に差し戻すことにする。

よつて、主文の通り判決する。

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